動物の健康をメンテナンスするうえで、栄養は非常に重要な役割を担っています。
近年、愛犬や愛猫への手作り食の提供が増加してきましたが、さまざまな栄養哲学が存在しているようです。
そこで、手作り食における科学的根拠に基づくアプローチについて整理します。
科学的な栄養アプローチとは、動物の生理学的、栄養学的ニーズに基づき、最新の研究と栄養ガイドラインに従って、バランスの取れた食事を提供することを指します。
このアプローチを実践するためには、栄養ガイドラインを理解し、それに基づいて動物に食事を提供することが重要です。つまり、動物の栄養のみにとどまらず、解剖学、生理学、生化学などを深く理解する必要があります。
EBCN(Evidence-based clinical nutrition、エビデンスに基づく臨床栄養)の概念は、この給餌計画におけるリスクとベネフィットを理解するうえでの枠組みとなります(Hand et al.,2010)。
犬や猫の栄養ガイドラインには、AAFCO、FEDIAF、NRCがあります。また、馬の栄養ガイドラインは、NRCがあります。
このように、コンパニオンアニマルには確立された栄養ガイドラインが存在します。
栄養ガイドラインは、広範囲の科学的研究と実際の栄養状況の分析に基づいており、動物に必要な栄養素の最適な量と比率を定義しています。
栄養ガイドラインの使用をすることは、動物の健康維持だけではなく、最適な成長、繁殖、老化のサポート、さらには疾患のリスクを低減することに繋がる場合もあります。
よって、動物に手作り食を提供する場合は、各動物の栄養ガイドラインを理解し、各個体の栄養要件を満たしたレシピを参考にして、食事を提供するべきです。
そうすることで、動物の健康を最大限にサポートすることができます。
しかし残念ながら、市販のフードとは異なり、公開されている手作り食レシピのほとんどが栄養要件を満たしていないことが調査により分かっています(Roudebush and Cowell, 1992)。
栄養バランスの悪い食事を長期的に続けることで、特定の栄養素の過剰症、もしくは欠乏症による疾患リスクが高まる傾向があるため、十分に注意する必要があります。
栄養ガイドラインには、動物が各ライフステージや特定の疾患に対応して健康を維持するために必要な栄養要件が定められています。
栄養要件を満たした食事を動物に提供することで、各栄養素の過剰症もしくは欠乏症を防ぐことができます。
血液検査で問題がない場合、栄養バランスを考慮しなくても良いと考える声もあります。
しかし、血液検査では栄養の過剰や欠乏がすべて反映されるわけではありません。そのため、血液検査の数値だけを見て安心するのはリスクがあります。
動物の体は、特定の栄養素を一時的に貯蔵します。そのため、短期間で栄養素の過不足が血液検査に反映されないことがあります。
そのため、栄養ガイドラインに基づいた食事を提供するとともに、動物病院で血液検査などを含む検査を実施することが大切です。
そうすることで、その食事が動物に合っているのかを正確に把握しやすくなります。
手作り食は個体のさまざまなニーズに柔軟に対応できることが最大の利点です。
市販のペットフードでは個体のニーズを満たすのに限界があります。一方で、手作り食は各ライフステージや特定の疾患に対応した繊細な調整が可能です。
例えば、動物が何らかの食材に対してアレルギー反応を示している場合、市販のフードでは食材を特定することは難しいですが、手作り食を提供することで問題となる食材を特定し、除去することが可能になります。
手作り食を作る際、薬膳、ハーブ、BARF(Biologically Appropriate Raw Food)、PMF(Prey Model Feeding)など、さまざまな食事方法が存在します。
これら沢山の選択肢の中から、自身の動物に適した食事方法を選ぶことは、ときに混乱を招くかもしれません。
結論からいうと、これらの食事提供方法は、ほとんどの場合で栄養ガイドラインは考慮されていないため、十分に注意する必要があります。
動物の食事に、このような考え方をペットの食事に取り入れる際には、まず栄養ガイドラインを優先して確立することが重要です。
その上で、特定の健康状態やニーズに応じて、食材や配合をカスタマイズすることが推奨されます。これにより、個体の健康をより効果的に保つことが可能になります。
例えば、関節炎がある動物に、薬膳の観点から抗炎症作用のある食材を追加することは、もしかしたら有益かもしれません。しかし、これは栄養バランスがすでに整っていることが前提です。
栄養バランスが悪い状態で単に食材を厳選しても、健康状態に悪影響を及ぼす可能性が高まります。
栄養ガイドラインをベースに個々のニーズに合わせてカスタマイズすることで、栄養の偏りを防ぎながら、安全な範囲内での調整を行うことができます。
栄養ガイドラインに基づく食事を動物に提供する目的は、個体のニーズを最大限に満たし、健康をサポートすることです。
動物に手作り食を提供する場合は、栄養ガイドラインを理解したうえで、手作り食のレシピを作成することが重要です。
そのうえで、個体のニーズに応じたカスタマイズを行うことが、健康管理の最適なアプローチと言えるでしょう。
〈参考文献〉
・Hand, M. S., Thatcher, C. D., Remillard, R. L., Roudebush, P., & Novotny, B. J. (eds.). (2010). Small Animal Clinical Nutrition (5th ed.). Mark Morris Institute.
・Roudebush, P. & Cowell, C. S. (1992). Results of a hypoallergenic diet survey of veterinarians in North America with a nutritional evaluation of homemade diet prescriptions. Veterinary Dermatology, 3, 23-28.