皮膚の痒み、嘔吐、軟便などの症状があるにも関わらず、検査をしても疾患が見つからない場合は、もしかしたら食事との関連性があるかもしれません。
残念ながら、血液検査によるアレルギー検査、また療法食によるアレルギー問題の解決は、一部のケースでは非常に困難である場合があります。
食物有害反応(Adverse reaction to food)とは、「摂取した食品または食品添加物に対する異常な反応」(Hand et al., 2010)を指します。
一般的には、ネコの方がイヌよりも食物アレルギーが多いとされています。(MacDonald, 1993)
食物有害反応は、「免疫学的な要素」と「非免疫学的な要素」の2つに分類されます。
食物アレルギー(免疫学的)
特定の食物成分に対して免疫系が過剰反応を示すことで引き起こされます。
通常は、免疫系が特定の食物成分を誤って危険な異物と認識し、これに反応してIgE抗体を生成します。
その結果、ヒスタミンや他の炎症を促進する化学物質が放出され、発疹や胃腸の不調を引き起こします。
食物アナフィラキシー(免疫学的)
食物アレルギーと同様に、特定の食物成分に対して免疫系が過剰反応を示すことで引き起こされます。これは、非常に急速で重篤な反応である傾向があります。
代謝性食物反応(非免疫学的)
体が特定の食物成分を正常に代謝できないために起こる反応です。例えばラクトース不耐症は、乳糖を分解するためのラクターゼ酵素が不足していることによる反応です。
食物有害反応の症状は、主に「皮膚」と「消化管」に見られます。
犬の症状として
- 丘疹(皮膚の表面が小さく盛り上がった状態。プツプツ。)
- 紅皮症(全身の皮膚の赤み)
- 発疹(赤い斑点など)
- 色素沈着
- 脂漏症(赤みやフケなど)
上記のような症状が挙げられます(Hand et al., 2010)。
ほかにも、食物有害反応を示す1/4の犬が耳の疾患があると示唆されています。(Rosser, 1993)。
この所見より、細菌感染やマラセチアを伴う外耳炎を発症する犬は、食物有害反応を疑うべきであるとされています(Scott et al, 2001)。
一方で、猫の症状として
- 全身性掻痒症(発疹などがないのに痒い)
- 粟粒性皮膚炎(小さな赤いブツブツ)
- 自己外傷性そう痒症
- 自己誘発性脱毛
- 化膿性皮膚炎
- 鱗屑性皮膚炎
上記のような症状が挙げられます(Hand et al., 2010)。
食物アレルギーを引き起こす犬種については明確な差はないとされていますが、チャイニーズ・シャーペイやジャーマン・シェパード・ドッグがよく報告されており、グルテン過敏性腸症はアイリッシュ・セター犬でよく報告されています(Battet al, 1984)。
消化管に関する症状では、嘔吐と下痢が顕著な症状であると言われています。下痢は、大量の水様性、粘液性または出血性で、排便回数の増加および嘔吐なども症状に含まれます(Hand et al., 2010)。
食物アレルギーの可能性がある犬や猫は、病院でアレルギー検査を推奨されることがありますが、実際には効果があまりないことが示されています。
ある研究では、健康な犬と食物有害反応の診断をされた犬を対象に調査したところ、血清および唾液検査で陽性結果が出たとしても、的中率が低いことなどから食物有害反応を確実に認識するためには使用できないことを実証しました(Udraite Vovk et al., 2019)。
食物有害反応の診断は、いまのところ除去食試験が有用とされています(Jackson,2009)。
除去食試験を始めるためには、専門家と協力して行うことが必要不可欠になります。
除去食試験を手作り食で行う場合は、必ず栄養ガイドライン(NRC,AAFCO,FEDIA)を理解して行うことが前提条件になります。
例えば、亜鉛、銅、セレン、脂溶性ビタミン、オメガ3などは、皮膚や消化管の疾患を抱える犬・猫にとっては特に重要です。不足、バランスが悪くなることで、症状が悪化することもあります。
栄養ガイドラインを参考にしながら、必要量を理解し、食材を組み合わせることが重要です。
除去食試験のステップ
手作り食で除去食試験を進めるステップは、以下です。
- 健康診断
- 食事日記
- 除去食に使用する食材を選ぶ
- 健康を維持する
食物有害反応でみられる皮膚や消化管の症状は、もしかしたら何らかの疾患が原因である可能性があります。
まずは自己判断せずに、動物病院で検査をし、治療が必要である場合は、そちらを優先します。そのうえで、食物有害反応が疑われる場合は、次のステップへ進みます。
今~現在にかけての食生活の記録をまとめます。「どのようなときに、どのようなものを食べていたのか」そして、皮膚や消化管の症状がみられた場合はそれも記録しておくことで、除去食を実施するのに役立ちます。
症状に季節性が見られた場合は、食物のアレルギーだけではなく、環境アレルギーについても疑うことができます。
除去食のプロトコルとして、初めに少数の食材から始め、徐々に新しい食材を一つずつ導入する方法が推奨されています。(Olivry and Mueller, 2010)
使用する食材は、これまで動物が食べたことの無いものを使用する傾向があります。
除去食を開始したら、レシピ以外の食べ物は一切提供しないようにします。少量でも、それが原因でアレルゲン物質を特定できなくなることがあります。
除去食が上手く進めば、犬や猫の健康の改善が見られます。
必要に応じて、プロバイオティクスや消化酵素、その他サプリメントなどを使用することで、健康状態の維持に努めます。
〈参考文献〉
・Batt, R. M., Carter, M. W., & McLean, L. (1984). Morphological and biochemical studies of a naturally occurring enteropathy in the Irish setter dog: A comparison with coeliac disease in man. Research in Veterinary Science, 37, 339-346.
・Hand, M.S., Thatcher, C.D., Remillard, R.L., Roudebush, P., & Novotny, B.J. (2010). Small Animal Clinical Nutrition (5th ed.), Mark Morris Institute
・MacDonald, J. M. (1993). Food allergy. In C. E. Griffin, K. W. Kwochka, & J. M. MacDonald (Eds.), Current Veterinary Dermatology (pp. 121-132). St. Louis, MO: Mosby-Year Book Inc.
・Olivry, T. & Mueller, R.S. (2010). ‘Evidence-based veterinary dermatology: a systematic review of the pharmacotherapy of canine atopic dermatitis’, Veterinary Dermatology, vol. 21, no. 1, pp. 123-136.
・Rosser, E. J. (1993). Diagnosis of food allergy in dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association, 203, 259-262.
・Scott, D. W., Miller, W. H., & Griffin, C. E. (2001). Small Animal Dermatology (6th ed.). Philadelphia, PA: WB Saunders Co.
・Jackson, H. A. (2009). Hypoallergenic diets: Principles in therapy. In J. D. Bonagura & D. C. Twedt (Eds.), Current Veterinary Therapy XIV (pp. 395-397). St. Louis, MO: Saunders Elsevier.
・Udraite Vovk, L., Watson, A., Dodds, W. J., Klinger, C. J., Classen, J., & Mueller, R. S. (2019). Testing for food-specific antibodies in saliva and blood of food allergic and healthy dogs. The Veterinary Journal, 245, 1-6.